ご案内
航空政策の経緯運輸政策審議会は今から10年前の一九八六年六月、従来の航空政策を大きく転換する可能性を有する答申を提出した。
戦後、日本の航空政策では、若干の変化をみながらも、競争の抑制による幼稚産業の保護・育成という点に重点が置かれてきた。
一九七〇年以降の航空政策の基本方針として最近まで採用されてきたいわゆる「四五・四七体制」も、この考え方に則ったものであり、「国際定期線は日航のみ、国内幹線は日航、全日空、東亜(現在の日本エアシステム)の三社のみ、国内ローカル線は全日空と東亜のみ」しか運航を認めないという市場分割体制が、実に一五年という長い歳月にわたり維持され続けてきたのである。
右記運政審答申は、この「四五・四七体制」を廃止し、航空事業者の営業エリアの固定化をやめ、政府規制をゆるめて競争を促進する下地をつくろうとすることを意図したものであり、国内線での同一路線複数社運航(ダブルートラッキング、トリブルートラッキング)の拡大と国際線への複数社の進出および日本航空の完全民営化等をその内容としたものであった。
この答申を受けて、運輸省は、全日空と東亜の国際線進出を認め、また、日本航空の国内幹線以外への進出と同一路線複数社運航の拡大を実行した。
後述するように、これだけで日本の航空政策が競争促進型に変化したと言うことはできない。
しかし、日本の航空政策が、厳しい規制主義にあった過去から、規制緩和・競争促進へと変化するまがりかどにまでは達したといってよい。
このような規制緩和・自由化の考え方は、第1章の末に掲げた航空政策の課題に対応するものでもある。
高度成長と大規模な技術革新という航空輸送市場の外的要因に期待できない以上、航空会社に対する政府の規制と保護を緩和し、競争刺戟を与え、それによって技術革新のメリットを最大限に発揮させ、かつ労働生産性を高めて効率的経営を行わせるとともに、消費者のニーズに対応した多様なサービスを供給させることが必要となる。
しかしながら、八六年の運政1答申がそのような方向転換を行ったとは言え、それから一〇年、その後の航空政策は規制緩和と競走促進の考え方を十分反映したものとはなっていない。
以下では、規制の問題および規制緩和の必要性についてもう少し立ち入って検討したうえで、現行政策の評価と今後の政策のありかたを考えてみよう。
航空輸送は様々な規制を受けているが、近年言われている「規制緩和」とは、航空輸送をけじめ他の公共料金分野においても共通の「需給調整規制の緩和」のことをさす。
事業者が受ける規制は、質的規制と需給調整規制(量的事業規制)に大別される。
質的規制とは、商品・サービスの質について一定の水準を保つために、経営能力や品質の最低限を遵守させる規制であり、「飛行何万時間毎に航空機エンジンのオーバーホールを義務付ける」といった安全上の規制は質的な規制の典型である。
質的規制の目的は一定の品質の担保であって、本来は供給量を制限することは目的とされていない。
これに対し、需拶調整規制は量的事業規制とも呼ばれ、供給者の数や供給量を規制する競争抑制的な規制である。
これは通常の産業政策において独占禁止法を通じてなされる競争促進策とは全く逆方向の政策介入である。
量的規制が公益事業的規制とも呼ばれるのは、公益事業がこの種の規制を受ける代表的産業だからである。
日本の場合、定期航空輸送に従事するには、事業を行うにあたって事業免許と路線免許を運輸大臣から取得する必要がある(免許制度による参入規制)。
需給調整規制が関係してくるのは主として路線免許についてであり、同一路線に複数社の運航が認められるか否かは年間輸送人員を基準に判断されている。
事業免許自体は事業遂行能力を満たせば与えられるが、現行基準は航空三社(日航、全日空、日本エアシステム)とその系列会社以外が免許を取得するうえでは非常に厳しい水準になっており、実質的に需給調整規制としても機能している。
ただし、国内線の場合には、五〇席以下の機材を用いて「定期的な」航空輸送を行う場合には、不定期航空事業免許によってそれを可能とする規制緩和が行われており、この場合には定期航空事業免許よりも緩やかな基準が適用される。
また、需給調整規制が課される際には、参入を認められた複数の企業間で価格競争が生じないようにするために、かつ、独占価格を阻止するために、価格規制が付随的に課される。
国内航空輸送の場合には、一九九六年六月に新しい運賃制度が導入されるまで、運賃は各路線ごとに定額で認可されており、同じ区間を複数の航空会社が運航している場合、運賃は航空会社にかかわらず同額に規制されていた。
現在では、運輸大臣の定めた上限価格と下限価格の範囲内で運賃を設定するよう義務付けられている。
新制度導入の前の定額運賃および新制度のもとでの上限価格は標準原価に基づいて設定され、この標準原価は、航空会社の会社全体の費用と路線原価を基準に一定のルールに基づいて設定される。
国際航空輸送については、二国間の航空協定によって、@乗り入れ地点、A以遠権(相手国の地点からさらに路線を伸ばして第三国との問を輸送する権利)、B輸送力(便数等)、C就航航空会社、D運賃の規制方式等が定められる。
伝統的な航空協定では市場参入について相互主義がとられており、@ABについては相互の権益を同水準にすることが基本となっている。
日本が現在締結している大部分の航空協定も相互主義の伝統的な形態をとっているが、米国との間では変則的な形になっており、乗り入れ地点数と以遠地点数で日本企業が不利な状況になっているほか、輸送力は実質的に航空会社の自由に任されている。
国際航空運賃については、伝統的な航空協定のもとでは、航空会社が申請した運賃を両国ともが認可しなければ当該運賃は発効しない形(両国承認主義)がとられており、航空会社は国際定期航空事業者の団体であるIATA(国際航空運送事業者協会)において了承されたカルテル運賃を両国政府に申請して認可を受けるのが伝統的な形である。
航空輸送を含めて、公共料金分野におけるこういった需給調整規制は、@規模の経済性を実現するため、A幼稚産業を保護するため、B不採算だが社会的に必要なサービスを内部補助する原資を採算サービスで確保するため、といった根拠に基づいているとされてきた。
しかし、近年、このような規制は、その本来の目的である経済成果を達成しておらず、むしろ、競争を抑制し、生産性を低下させ、却って効率を阻害している、との批判にさらされている。
前述した規制制度は日本に関する制度であるが、先進諸国では国内航空について市場参入や運賃に対する規制を撤廃・緩和する動きが一九七〇年代来から活発であり、国際航空についても、IATAのカルテルとしての力は後退しており、航空協定自体を自由化の方向で見直す動きもみられる。
航空輸送を含めて規制緩和が叫ばれているのは、こういった伝統的な需給調整規制がその役割を失ってきたからである。
規制緩和というと、すべて規制を緩和することのように誤ってとられることが多いが、公共料金の分野でいう規制緩和とは、この需給調整規制の緩和を中心的課題としている。
次節では、右記の規制根拠が現代の航空市場では正当性を失っていることを示す。
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